大敗に魂を見る。
ラグビーならではの美しい瞬間だ。いつもいつもそうはいかぬが、まれになら遭遇できる。
11月13日、土曜の午後の秩父宮ラグビー場がそうだった。トップイーストのセコムーキャノン。
それぞれ1勝6敗と7戦全勝の対戦である。0-55。順当かもしれぬ数字の並びに物語の存在は想像しづらい。
しかし一方的でない時間の流れを経た一方的スコアの一戦こそは「良き人間の物語」なのであった。
セコムラガッツ、永遠なる背番号1、36歳独身、本社営業開発3部所属、山賀敦之の試合中の顔を凝視したら、よほどの冷血でなければ泣けてきただろう。「人前で泣くな」が家訓なら涙の気配をそっと飲み込んだはずである。なんと記すのか、酸素が足りなさそうなのだ。つまり「出し切り」。オールアウトだ。学生でも途中交代がお約束のようなプロップ稼業なのに、本日もフルタイムで力を尽くす様子に「健康」が心配になった。
NO8の高根修平主将(青梅支社)の再三の突破、いや「突破」という単語では説明のつかぬ何かに憑かれたような前への衝動も、見る者の涙腺に働きかけた。(文/藤島大)