


サントリーにとっては大切な勝利だ。現実の白星によって新しい方針への自信を深めた。いつでもどこでも突き抜けるように攻める。攻め続ける。意思統一とフィットネスのレベルは壮快なまでに見事だ。そして、その上で、もし敗れていたら衝撃は深かった。
三洋電機は大きな勝利を逃した。仮に終了の笛と同時に宙に腕を突き上げていたら、とてつもない自信をつかめただろう。他チームにしたら、もはや遠くへ行ってしまったかもしれない。
「三洋電機リザーブのノートンナイト選手は練習中の負傷のため田井中選手と交替しています」
キックオフの直前、そんな内容の場内放送が流れた。熱戦の気になるプロローグだった。
SO、CTB、FBをこなす貴重なユーティリティー、ワラビーズのキャップ2、サム・ノートンナイトがウォームアップの途中に太ももの違和感を覚え、チーム医師らの判断により大事をとった。
三洋の悲劇が始まった。タイトルは「そして誰もいなくなった」。
開始18分。制御中枢にして発動機、背番号10のトニー・ブラウンが足を痛めて退いた。ところがノートンナイトはいない。そもそも本来の12番で頼れる補佐役、入江順和を負傷で欠いている。
強風を背にした前半は15―0。
後半開始と同時にCTB霜村誠一主将が足の不調でベンチへ。WTB山田章仁が不慣れなミッドフィールドへ移る時間帯もあった。15―14の勝負どころの21分、これまた攻守の重鎮、背番号5、ダニエル・ヒーナンが負傷でアウト、直後、WTBの北川智規まで足をひきずり、急遽メンバー入りの田井中啓彰と交替する。残り6分にはナンバー8のホラニ龍コリニアシもついに。
ポジションのバランスは崩れ、リザーブ席はからっぽ。並のチームなら戦意喪失もありうる展開だ。それでも得点力とスタミナのサントリーを向こうに、PGで逆転を許す残り3分まで1点のリードを保った。
ボロボロなのに強かった。ボロボロだから底力が分かった。中心選手と抜擢組の土壇場でのプレーの正確性にはずいぶん差があったが、ゴールラインはなかなか割らせなかった。
試合後、サントリーのエディ・ジョーンズ監督に、いささか勝者には礼を欠く質問をした。トニー・ブラウン退場は悪いニュースではありませんよね?
「試合前から足にサポーターを巻いていたのでケガを抱えているのは知っていた。ただ彼がいるかいないかでこちらのプランを変える気はまったくなかった」
まさに、そんな試合だった。サントリーの揺るがぬ一貫性が後半の後半の一方的攻勢をもたらした。
「見事なディフェンス・チームである三洋相手にワイドに展開しても崩すのは無理だ。ダイレクトに突き破るランをするほかない」(同監督)
貫いた。でも三洋は簡単に崩せなかった。前半は攻撃の多くがエラーか反則で終わった。おそらく賢者たるジョーンズ監督は「もっと得点できる」と踏んでいたのではないか。三洋が核となる存在を欠いた事実を考慮すれば安閑とはできない。
ただしサントリーのおのれの戦法を信じる力が勝利を引き寄せたのも間違いない。
「(なかなか得点できずに)もどかしかったが攻めていれば結果は出ると信じていた」